二百三高地 制作中

日露戦争の旅順攻囲戦における、203高地の日露両軍の攻防戦を描いた作品」
以前、何度か聴覚障害者の方から字幕付のリクエストがあった作品です。古い作品ではありますが、歴史に残るものなので字幕化を開始しました。3時間の大作なのでかなりの時間がかかると思います。参考までに字幕制作方法を。

1:DVDの発売元に交渉し、DVDと台本を入手
2:台本をよく読んで、話者名や地域名など、使用する語句を正確に書き留める
3:基本、聞き取り作業で、文字起こし(不明な点を台本参照)
4:聴覚障害者が読みやすいような字幕に成形する
5:字幕のタイミング打ち(箱割りと言います)
6:校正、修正
7:字幕制作者と違う、別の人で校正を行う(字幕の完成度を上げるため)
8:修正、「おと見」データに変換

という流れになっています。

こんなに少ないDVDの情報保障


ADA法を持つアメリカでは訴訟問題になりますが、日本ではこんな状況です。その他ジャンルは、ゴルフや釣りなど趣味、教育関係などが全て含まれます。特に教育関係映像にアクセス出来ないことで生じる教育格差は大きな問題です。実は来週、熊本に出張して、先生向けに字幕制作ソフトの講師をしてきます。発売元が付けるのを待っては居られませんので、現場の先生にも字幕制作スキルを身につけて頂き、全国でその字幕データが使われるようにするのが目的です。

日本の映画が見たい ー聴覚障害者の切実な声ー


当時、この件が解決してから、南さんと経済産業省に行きました。現状を伝えた上で解決方法を探りましたが、未だ何も変わっていません。
MASCは技術的解決手段を持っていますので、少しずつ出来ることから始めています。
そのひとつが、この「図書館所有DVDライブラリのバリアフリー化事業」なのです。

「字幕の無いストレス」とは? 
代表的な映画でいえば「ラストサムライ」。英語の台詞には日本語翻訳字幕が付きます。しかし、日本人が日本語を話すシーンには字幕が無いのです。つまり、話の途中、細切れで内容が追えなくなるのです。このような映画は多数あります。音が聞こえる者にとっては、途中で音が途切れるのと同じです。ちなにみ「ラストサムライ」はMASCで字幕を配信しています。

高齢者人口の増加と図書館の役割

もし自分が高齢になって、使える時間が沢山有ったら間違いなく図書館に通うと思います。

敬老の日の直前に総務省が毎年発表している「統計からみた我が国の高齢者」
高齢者人口は2980万人(総人口の23.3%)で過去最高

高齢者の定義は65歳以上です。そして70歳以上になると、2197万人(総人口の17.2%)。このうち、約半数が高齢難聴なので、高齢者だけでも1000万人を越える方が難聴なのです。

難聴者にとって、本を読む事になんの支障もありませんが、図書館で充実してきた映像ライブラリーにアクセス出来ないのは悲しい事です。一般の映画だけではなく、その地域しか鑑賞出来ない貴重な映像ライブラリーもあるでしょう。字幕さえあれば鑑賞出来るのに、殆どのDVDには聴覚障害者用字幕が入っていません。

高齢者の増加で図書館の利用は増えると思いますが、映像ライブラリーのバリアフリー化についても是非、視野に入れて頂きたいと思います。

字幕化事業?音声ガイドは?

「映像のバリアフリー化事業」というと、実は聴覚障害者用字幕と視覚障害者用音声ガイドの両方が必要です。

web-shake字幕という字幕配信を始めた時、ある方が「いや視覚障害者も同じ数だけいるんだよ」と聞いて初めて気がつきました。聴覚も視覚も感覚的なこと、さらにいろんな障害に分かれるため、手帳保持者イコールその数では無いことも分かりました。聴覚障害者向けには、全国で展開する情報提供施設の字幕ビデオライブラリーがあったりしますが、字幕が必要でも手帳が無いため借りられなかった話も沢山聞いています。(現在は借りられるようです)

視覚障害者用音声ガイドについては日本点字図書館さんの事業で、年間一定数のDVD用音声ガイドが作成されています。日本点字図書館さんは当NPOの賛助会員でもあり、常に情報交換しながら映画の音声ガイドの普及にも取り組んでいます。

今回の事業は予算の関係で、聴覚障害者用字幕のみとなりますが、同じ仕組みで音声ガイドに対応出来るようにしていきまたいと思います。

はじめまして 1

NPOメディア・アクセス・サポートセンターの川野です。
まずは自己紹介を。

職歴としては
「音響エンジニア」「映像制作コーディネーター」「音楽制作技術サポート」「音楽スタジオマネージャー」などです。エンターテイメント産業の中に居ます。
基本は技術系で、新しい物好きです。

インターネットを知ったのは日本ではNTT有志のホームページしか無かった時代。
一瞬で世界の裏側に繫がるパケット通信の衝撃は今でも覚えています。インターネットによって世の中の事情が大きく変わることを確信し、いつかネットに係わる仕事をしたいと思い始めていました。

DVD制作のコーディネートをしていた約5年前に「このDVDを観たい。字幕を付けて発売し直して欲しい」と署名活動をしているサイトをたまたま発見しました。ある聴覚障害者のサイトでした。字幕を付けて発売し直すことなど100%無い、ことを知っている私は何か方法が無いか調べてみました。その方法がネットによる字幕配信でした。

「発売済DVDに字幕を配信する」。技術的に可能であっても権利的には?
著作権を調べつつ、様々な方に相談すると、「送信可能化権」のクリアーが必要だと分かり、日本脚本家連盟日本シナリオ作家協会日本文藝家協会日本映画監督協会JASRACとの包括契約を結びました。
そして、その先のビジネスの可能性を会社に説得し字幕配信サービスはスタートしました。
ユーザー無料に拘ったのは、アメリカでは既に行われている「スポンサー企業」による字幕配信であり、まずはサービスを広げることが優先だったからです。
当時「ネットが社会に役立つ素晴らしいサービス」と話題になりました。

そしてサービスを続けつつ、時々視聴覚障害者との交流を持ちながら、メディアの状況を客観的に見たとき、大きな問題に気がつきました。それは

「メディアの多様化で個々に対応していくのは不可能」

続く…。

はじめまして 2

「メディアの多様化とは?」

例えば映画(邦画)が製作されると、
映画館での上映、DVD・Bru-lay、TV放送、ネット配信、BS/CS、等多くのメディアになります。
この中で聴覚障害者が安心して字幕付で観られるのは、TV放送のみです。
何故かというと、TV放送の字幕付けには総務省補助金が年間5億円前後あり、深夜以外はほぼ字幕が付いています。その他の補助金の無い営利企業が送り出すメディアは、主にコストの問題から自ら字幕を付けないのです。

映画の字幕って、メディアによって違いはあるのでしょうか?
若干の仕様による制限はあっても、もちろん同じです。

現在日本は国連総会で採択された「障害者権利条約」の批准に向けて関連法案の整備に入っていますが、これが批准されると、基本全てのメディアに情報保障が義務付けられる可能性があります。
では、すべてのメディアで国は補助金を出すのか?

そんなことは不可能です。
映画の字幕はひとつなのに、共有していないことが大きな問題なのです。

そこで、営利企業でのプロジェクトに限界を感じ、NPOを設立しました。
MASCが提唱するのは「字幕と音声ガイドのアーカイブ」。
昨年はDVD120ディスクの字幕付けを行い、現在187ディスクの字幕配信を行っています。字幕配信の仕組みはDVDだけではなく、全てのメディアに対応出来る技術もあります。

今回光栄にも選ばれた「図書館所有DVDライブラリのバリアフリー化事業」は図書館所有DVDを調査して、出来るだけ上位のDVDから字幕付けを行っていく事業です。数年後に仮にネット配信に切り替わっても、字幕データは同じですので永久に使えるのです。
そこには「字幕提供:図書館振興財団」と入ります。

知的ボランティアが集まる図書館で、いずれ、「聴覚障害者用字幕制作ボランティア」が活躍出来るような環境を作るのも目標です。

私の大好きな図書館で映像のバリアフリー視聴環境がどんどん広がれば嬉しい限りです。
とりあえず3月までですが、宜しくお願いいたします。