聴覚障害者用字幕と権利制限について

平成22年1月1日。「著作権法の一部を改正する法律」が施行されました。

この中で、障害者のための著作物利用に係る権利制限の範囲の拡大が行われ、映画や放送番組の字幕の付与,手話翻訳など,障害者が必要とする幅広い方式での複製等を可能とすること。また、障害者福祉に関する事業を行う者で政令で定める者(視聴覚障害者情報提供施設や大学図書館等を設置して障害者のための情報提供事業を行う者や,障害者のための情報提供事業を行う法人等のうち文化庁長官が定める者)であれば,それらの作成を可能とすることとなりました。

メディア・アクセス・サポートセンター(以下MASC)は障害者福祉に関する事業を行う者として文化庁長官が定める指定団体です。

この法改正が行われる以前は、DVD向け字幕配信において脚本配信と見なされるため、送信可能化権のクリアーが必要でした。それは、脚本家だけではなく、原作者、監督、そして歌詞字幕もあればJASRACとの包括契約にも及びました。そして全ての著作権団体と包括契約を結び、僅かな広告料収入から計算をして分配を行いました。各個人が団体に属していれば包括契約だけで済むのですが、団体に属さない個人とは個々に契約書を交わすことになりその作業は大変な事でした。これが大きなネックになっていたのですが、この権利制限によって、字幕配信における許諾は一切不要になったのです。

この権利制限では「字幕の無いDVDは複製して字幕を付けても良い」となっています。これはDVDを複製しなければ字幕が付けられないという考え方からくるもの。実はここに大きな矛盾があります。DVDには複製を防ぐためにコピーガードが入っています。複製を防ぐためのコピーガードを法律で外していい、と言っている訳です。実はこの矛盾に対して指定団体の所で大きなポイントがあります。法第37条の2第1号,令第2条の2第1項第1号関係の、「聴覚障害者等のための字幕等の作成・自動公衆送信が認められる者」のくだりです。この「自動公衆送信」はMASCの字幕配信なのです。(当時はキューテックのweb-shake字幕配信)この法改正が行われる前に何度か文化庁著作権課に出向き、「DVDは複製しなくても字幕を配信で付けられる」という説明を何度か行っていたものが反映されたものと推測されます。当時放送におけるリアルタイム字幕はありましたが、字幕の自動公衆送信を行うのはMASCのみでした。

さてこの矛盾に対しての新たな動きですが、昨年12 月1日に、改正不正競争防止法が施行され、「リッピングソフト」を収録したCD-ROM等を添付した雑誌や書籍の販売などした場合には、刑事罰が科されることになりました。一方で字幕の無いDVDは字幕を入れて複製してもいい、一方で複製ソフトの販売、配布は違法、という事です。

この矛盾を解決するのが今回の事業で実施されている、ネットやUSBメモリーによる別データで行う、複製不要な字幕付けなのです。

MASCが行うこの事業は国内のDVD発売元が加盟する、日本映像ソフト協会の会報でも紹介され、権利者団体からも全面的に支持されています。DVDに字幕を付けるエディタ、そしてネットから字幕表示出来るプレーヤーが広がることを権利者団体が望んでいるのです。実は「早くブルーレイにも対応して欲しい」という発売元からの要請もあります。

ということで、長くなりましたが聴覚障害者向けにMASCが字幕付けを行う事に、権利的な問題は一切無いことを説明しました。