助成事業終了 実勢報告

昨日をもって助成事業が終了しましたので、まずはここで、ご報告致します。

【事業についての概要】
 MASCの開発したパソコンソフト、「バリアフリーDVDプレーヤー」は外部の字幕や音声ガイドを読み込むことが出来、これを使ってデータをUSBメモリーでデータを供給し、既に所有しているDVDのバリアフリー化を行う。

【事業の具体的な実施内容】
1 :図書館で聴覚障害者がアクセス出来ないDVDのニーズ調査を行う。
2 :調査結果に基づき、過去の名作等の映像を順次字幕化する。
3 :図書館自らが字幕制作を申し出た場合、又バリアフリー上映会のサポートを希望する
  場合、可能な範囲でサポートを行う。

目標 字幕10作品

【期待される成果・効果】
 事業終了後のバリアフリーデータは全国の図書館、学校等でも永久に使えるようにする。MASCは字幕、音声ガイド制作ソフトも開発しており、全国の図書館でバリアフリー制作ボランティアが立ち上がれば、その量は急激に増えることが予想され、図書館の新しいサービスとして定着する。

【実績】
字幕配信作品:10
字幕+手話配信作品:2 合計12作品

 1:メタボリックシンドローム1「メタボと生活習慣病
 2:メタボリックシンドローム2「メタボの原因を考える」
 3:メタボリックシンドローム3「メタボの改善策を探る」
 4:メタボリックシンドローム4「続けるコツ」
 5:子どもの一次救命処置
 6:子どもの安全と応急処置   字幕+手話
 7:市民が行う「一次救命処置」 字幕+手話
 8:首都水没
 9:鉄コン筋クリート(最終確認中 後日アップ)
10:二百三高地
11:原発切抜帖
12:大洗にも星は降るなり(最終確認中 後日アップ)

【総括】
まずニーズ調査を行って分かった事ですが、図書館には一般には出回っていない教育用DVDなど、図書館ならではのラインナップがある事です。聴覚障害者は医師とのコミュニケーションがうまく行かず、医療系の情報が欲しい事も聞いていました。今回の事業では一般向けDVDを選択するのではなく、ニーズ調査に基づくラインナップとしました。
今回の事業に「手話」は入っていませんでしたが、医療系DVDに2作品ほど「手話配信」を加えることが出来ました。メニュー表示中に手話領域には「手話提供:財団法人図書館振興財団」と出てきます。字幕配信作品でももちろん、字幕表示エリアに「字幕提供:財団法人図書館振興財団」と出ます。配信作品数だけみると目標値を超えています。
しかし、当初予定していましたUSBメモリーによる配布には至らず、Webサーバーからの無料配信となりました。
http://npo-masc.org/dl/

NPO団体のミッションは「映像コンテンツに於けるバリアフリー視聴」を広げることであり、出来上がったデータを含め、200ディスクを越えるDVDへの字幕(手話)配信を全国の図書館へ今後広げていきます。

最後に図書館とは直接関係無いNPOに対し、このような助成を頂けたことを深く感謝致します。ありがとうございました。またこの助成が我々にとってステップアップに繫がった事は間違いなく、恩返しが出来るように図書館での映像視聴における視聴覚障害者向けサポートを引き続き行っていきます。

それでは今後とも宜しくお願いいたします。

DVDへの字幕付けは娯楽なので後回し?

映画やアニメDVDへの字幕付けの話。
長い歴史がある話ではありませんが、障害者福祉の観点で考えると命に係わる事でもないと考えられ日本ではずっと後回しになっていたように思います。いわゆる娯楽として捉えているからです。アメリカではADA法によって放送をはじめとする映像コンテンツに対する情報保障は徹底されています。それは娯楽が心を豊かにする大きな役割を果たすという考え方なのではないでしょうか。

DVDへの字幕配信で、松田優作さん主演の「蘇える金狼」に字幕を付けた時、ある聴覚障害者の方からこんなメッセージが届きました。
「すっと観たかった作品に字幕を付けて頂いてありがとうございます。何だか生きる希望が湧いてきました」と。

現在、「子どもの一次救命処置」というシリーズの字幕付け作業を行っていますが、知識があるか無いかで命に係わることもあるのです。東日本大震災でも聴覚障害者には情報が届かず大変な思いをしたという話も聞いています。

つまり「映像コンテンツへの字幕付け」は娯楽ということで後回しにしていいものでは無いのです。

聴覚障害者用字幕と権利制限について

平成22年1月1日。「著作権法の一部を改正する法律」が施行されました。

この中で、障害者のための著作物利用に係る権利制限の範囲の拡大が行われ、映画や放送番組の字幕の付与,手話翻訳など,障害者が必要とする幅広い方式での複製等を可能とすること。また、障害者福祉に関する事業を行う者で政令で定める者(視聴覚障害者情報提供施設や大学図書館等を設置して障害者のための情報提供事業を行う者や,障害者のための情報提供事業を行う法人等のうち文化庁長官が定める者)であれば,それらの作成を可能とすることとなりました。

メディア・アクセス・サポートセンター(以下MASC)は障害者福祉に関する事業を行う者として文化庁長官が定める指定団体です。

この法改正が行われる以前は、DVD向け字幕配信において脚本配信と見なされるため、送信可能化権のクリアーが必要でした。それは、脚本家だけではなく、原作者、監督、そして歌詞字幕もあればJASRACとの包括契約にも及びました。そして全ての著作権団体と包括契約を結び、僅かな広告料収入から計算をして分配を行いました。各個人が団体に属していれば包括契約だけで済むのですが、団体に属さない個人とは個々に契約書を交わすことになりその作業は大変な事でした。これが大きなネックになっていたのですが、この権利制限によって、字幕配信における許諾は一切不要になったのです。

この権利制限では「字幕の無いDVDは複製して字幕を付けても良い」となっています。これはDVDを複製しなければ字幕が付けられないという考え方からくるもの。実はここに大きな矛盾があります。DVDには複製を防ぐためにコピーガードが入っています。複製を防ぐためのコピーガードを法律で外していい、と言っている訳です。実はこの矛盾に対して指定団体の所で大きなポイントがあります。法第37条の2第1号,令第2条の2第1項第1号関係の、「聴覚障害者等のための字幕等の作成・自動公衆送信が認められる者」のくだりです。この「自動公衆送信」はMASCの字幕配信なのです。(当時はキューテックのweb-shake字幕配信)この法改正が行われる前に何度か文化庁著作権課に出向き、「DVDは複製しなくても字幕を配信で付けられる」という説明を何度か行っていたものが反映されたものと推測されます。当時放送におけるリアルタイム字幕はありましたが、字幕の自動公衆送信を行うのはMASCのみでした。

さてこの矛盾に対しての新たな動きですが、昨年12 月1日に、改正不正競争防止法が施行され、「リッピングソフト」を収録したCD-ROM等を添付した雑誌や書籍の販売などした場合には、刑事罰が科されることになりました。一方で字幕の無いDVDは字幕を入れて複製してもいい、一方で複製ソフトの販売、配布は違法、という事です。

この矛盾を解決するのが今回の事業で実施されている、ネットやUSBメモリーによる別データで行う、複製不要な字幕付けなのです。

MASCが行うこの事業は国内のDVD発売元が加盟する、日本映像ソフト協会の会報でも紹介され、権利者団体からも全面的に支持されています。DVDに字幕を付けるエディタ、そしてネットから字幕表示出来るプレーヤーが広がることを権利者団体が望んでいるのです。実は「早くブルーレイにも対応して欲しい」という発売元からの要請もあります。

ということで、長くなりましたが聴覚障害者向けにMASCが字幕付けを行う事に、権利的な問題は一切無いことを説明しました。

バリアフリーDVD作成エディタ

そろそろ事業終了後の動き方の検討に入りました。
作ったはいいけど使われなければ意味がありません。プレーヤー自体の普及促進と同時に、開発している「エディタ」があります。

これはDVDを複製せずに簡単に字幕を付けることが出来る字幕制作ソフトです。こらが全国の図書館に広まって、地域のボランティアの方々が字幕制作に参加して頂けるなら、より多くのDVDのバリアフリー視聴が可能になるのです。朗読ボランティアが集まるように、字幕制作ボランティアが図書館を中心に動き出すかもしれません。発売されているDVDに字幕が無くても図書館に行けば字幕が出てくるということで、新しい障害者サービスになるのでは無いでしょうか。

既にボランティア養成講座を開催していますが、「字幕制作は楽しい」という方が殆どです。知的ボランティアとして定着させていくのが目標の一つです。

図書館ならではの映像ソフトライブラリー

今回の事業では最初に図書館流通DVDについて調べました。
TRCさん、図書館協会さん、そして東京近郊の図書館などです。

実は聴覚障害者が困っていることの一つに、医療系の話が必ず出てきます。コミュニケーションが難しいため、医者とのやりとりがスムーズにいかず、出来るだけ病院には行かない、とう人も居ます。医者が筆談を拒む、大声を出されても聞こえない...など、様々な問題があるようです。調べていく中で、一般には販売していない、図書館ならではのDVDとして医療系は多数入っていることが分かりました。そこで、

何かあったときの緊急対応
・子どもの一次救命処置
・子どもの安全と応急処置
・市民が行う 一次救命処置(成人対象)
メタボリックシンドローム シリーズ
・首都水没

が加わり、制作をしています。
これらのDVDは、知っておくべき知識としてずっと観られていくものであり、対応したことを多くの聴覚障害者にお知らせしたいと思います。

第13回図書館総合展にて

毎年時間があれば行っていたのだけど、今回は図書館振興財団の成果発表会があるとのことで、まずは2階からスタート。
その前にパシフィコ横浜に着くと、「キルト・・・?」の展示会があって、図書館総合展が奥の方だったのでちょっと違和感がありました。図書館がキルトに負けているのか...?
成果発表会では有意義な事業が助成金によって進められていること、多くの人にアピールした方がいいと感じました。

成果発表会終了後、あまり時間が無かったので駆け足で展示会を回りました。少し閑散としている印象。その中で目立っていたのが若者の姿。活気のあるブースもあって、図書館も新しく生まれ変わろうという動きがようやく始まったような印象を受けました。

そもそも、当NPOの行う、ネットを使ったDVD用字幕配信事業は、図書館現場の職員が面倒くさいと思うと、まったく導入が進まない話。「面白い!」「新しいサービスが出来る!」と感じて頂けるのは、やはり若い力だと思っているので、そんな方々にまずは知って頂きたいと思いました。

字幕制作を進めつつ、図書館での利用促進を同時に行っていきます。

字幕を表示するメガネ開発


MASCにはネット経由で字幕を表示させるノウハウがあります。これは映画館で字幕を見るためのシステム提案です。オリンパスが試作した超小型ヘッドマウントディスプレイにiPhoneを接続してネット経由でスクリーンの映画に字幕が同期します。今週末の東京国際映画祭で使用されます。
背景には劇場公開の邦画やアニメを字幕付で見られる機会が非常に少ないことです。現在、数少ない字幕を焼き付けたフィルムは全国主要都市を各2日間程度しか上映しません。残念ながら沖縄には字幕付フィルムは届きません。MASCはDVDで実施している、字幕をサーバに置いて配信する方法を劇場にも対応しました。ただ、技術的には可能であっての映画業界がやる気にならなければ進みません。そこで今回、東京国際映画祭でのアピールとなりました。